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映画『魔女の宅急便』に秘められたメッセージとは?

更新日:

GW に金曜ロードショーで放送する宮崎駿監督のアニメ映画『魔女の宅急便』。1989年の制作なので、なんと30年以上も前の作品です。ジブリ映画のベスト5にいつもランクインする作品とも言われる『魔女の宅急便』ですが、内容がシンプルで分かりやすいことからわりと『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』より短めなので好きだという人が多いそうです。

そんな『魔女の宅急便』をどのコラムや本でも傑作ファンタジーと紹介していますが、実は普通のファンタジーではありません。そこで、今回は宮崎監督の本作品の狙いや見落としていた面白い要素にフォーカスしていきます。このブログを読んで、今まで以上に『魔女の宅急便』を楽しめること間違いなしです!

『魔女の宅急便』のテーマとは?

『魔女の宅急便』は人気のジブリアニメ作品のひとつです。満月の夜、13歳の魔女の子・キキが親元を離れ、魔女の修行のためにひとり立ちの旅に出ました。唯一、使える魔法はほうきで空を飛ぶこと。

その特技を生かして、見知らぬ土地であるコリコの町で、空を飛ぶ「宅急便屋」始めます。キキは喜び、悩み、時に、唯一の魔法、「ほうきで空を飛ぶこと」が出来なくなってしまいます。さまざまな人の思いが詰まった荷物を雨の日も風の日も届ながら、成長していきます。

この作品は、キキが魔女として成長し、トンボを助けて街で有名になるといった傑作ファンタジー映画のように思えます。ところが、宮崎駿監督のメッセージは、キキの魔女としての成長ではなく、人間としての成長を描いていました。

『魔女の宅急便』のあらすじ

魔女の母と人間の父との間に愛情たっぷり受けて育った少女・キキが、13歳の満月の夜に大好きな両親のもとを離れ、旅に出ます。相棒の黒猫・ジジと一緒にほうきに乗り、見知らぬ土地で魔女の修行をするのです。初めて訪れるコリコという美しい都会を舞台に新米魔女のキキが過酷なしきたりに奮闘する姿は心を打たれます。

『魔女の宅急便』映画情報

  • Kiki's Delivery Service
  • 原作 角野栄子
  • プロデューサー・脚本・監督 宮崎駿
  • 音楽 久石譲
  • 音楽演出 高畑勲
  • 主題歌 荒井由実
  • 声の出演 高山みなみ、佐久間レイ、山口勝平、加藤治子、戸田恵子
  • 上映時間 102分
  • 公開日 1989年7月29日(土)
トリビア①

原作は角野英子さんの児童文学『魔女の宅急便』で、1985年にこの小説の単行本が発売され、その後すぐにジブリでアニメ化されました。

🔼角野英子 魔女の宅急便

『魔女の宅急便』登場人物

キキ

本作のヒロイン。魔女と普通の人間の間に生まれた少女。13歳になったら故郷を離れて、一年間修業のために1人暮らしをすることになっています。そのしきたりに則って満月の夜、両親のもとを離れて、相棒の黒猫ジジとともに旅に出ます。キキがこれまで習得した魔法はただひとつ、空を飛ぶこと。

キキは修行先をコリコに決め、その特技を生かした仕事、空飛ぶ宅急便を始めます。独り立ちすることの厳しさや楽しさを味わいながら一人の人間として成長していく姿が印象的です。

ジジ

相棒の黒猫で、男の子です。相棒の黒猫。キキと同じ時期に生まれた大切な仲間でもあります。キキ以外とは会話ができません。

トリビア②

魔女のおかあさんは、女の子が生まれると、同じ時期に生まれた黒猫を探して、いっしょに育てていきます。その間に、女の子と黒猫はふたりだけのおしゃべりができるようになるのでした。やがてひとり立ちする女の子にとって、この猫は、とても大切な仲間です。悲しくっても、嬉しくっても、分かち合える者があることは、とても心強いことなのです。                                魔女の宅急便 (福音館創作童話シリーズ)お話のはじまり より

🔼 魔女の宅急便 (福音館創作童話シリーズ)

オキノ

キキの父親。ごく普通の人間で、民俗学者です。妖精や魔女の伝説について研究しているとか。旅立ちの日にキキにねだられて高い高いしてあげる優しいお父さんです。

コキリ

キキの母親。古い魔女の家系。ほうきで空を飛ぶことと魔法で薬を作ることができます。コキリもまた、13歳の時に現在住んでいる街に修業のために降り立ってきました。

おソノ

キキが修行先に決めた街・コリコでグーチョキパン屋を営むおかみさん。コリコに来たばかりで途方に暮れていたキキに声をかけてくれます。おソノさんの提案でパン屋に居候するキキ。空飛ぶ宅急便の起業にも協力してくれる太っ腹のおソノさんはまさにおかみさんタイプ。キキと出会ったころは妊婦さんでしたが、エンディングでは赤ちゃんを抱っこしています。

おソノさんのだんなさん

パン職人。キキが居候するグーチョキパン屋のご主人であり、おソノさんの旦那さま。フクオという名前で、無口で黙々とパンを焼く姿が印象的ですが、ジジにウインクしたり、キキに“おとどけものやさん”の看板をつくったりする描写からは彼のお茶目で優しい人柄が伺えます。

トンボ(コポリ)◆

飛行クラブに所属するメガネの男の子。キキより1歳年上で、「トンボ」と呼ばれています。キキがほうきで空を飛ぶ姿に興奮して、馴れ馴れしく話かけたりします。空を飛びたいと強く願うトンボの前向きで明るい性格にキキは次第に心を通わせていきます。

ウルスラ

キキが荷物を届ける途中で黒猫のぬいぐるみを森に落としてしまい、それを拾ってくれた女の子がウルスラです。絵描きで、キキと出会うシーンでは、デッサンに集中していました。

キキにとって素敵なお姉さん的存在になっていきますが、ウルスラもキキからインスピレーションを貰っていい作品を制作します。互いに必要不可欠な存在となり、いい関係を構築していきます。

宮崎監督が込めたメッセージ

ロマンアルバムの『魔女の宅急便』メモリアルコレクションの中で、「辛かったらいつでも帰っておいで」と言ってくれる父親・オキノは娘に厳しく接することなく、薬草作りと空を飛ぶことしかできない母親・コキリは「娘のキキは空を飛ぶことしかできなくて」と言うような優しい良き母に見えます。

ところが、宮崎監督にとっては、自分の子供に「辛かったらいつでも帰っておいで」って簡単に言うから、いつまでも子供は成長できないんだと言っています。監督はそんなことを言ってしまう親は、「ロクなもんじゃねえ」っていうふうに吐き捨てています。そうかといって、この両親をキキと同じくらい愛おしく感じているのも事実でした。

宮崎監督が『魔女の宅急便』で描こうとした世界は、子供を甘やかす現代の典型的な両親とまともに子育てできないダメな両親に育てられた女の子でした。偶然かどうか分かりませんが、世相に反映したキャスティングと言えます。その女の子は自分のことしか考えられず、「自分が他人に何ができるのか」ではなく、「他人に何をしてもらえるのか」ばかりを考えて生きています。

この作品が制作された30年前、世の中はキキの両親のようなタイプが増え、子供を甘やかしすぎだと世間で話題になっていたことを思い出します。

『魔女の宅急便』は、つまるところ破天荒なアンチファンタジーなのです。

どうして飛べなくなったのか?

さまざまな解説や本の多くは、次のような答えが多かったです。たとえば、精神的に幼いキキが、ひとり立ちして自分の行動を見つめ直す瞬間があのシーンだったとか、トンボへの恋心や悩みで苦悩するキキがまさに大人になろうとするがゆえに起こる「成長痛」のようなものなどです。それを経験したからこそ、キキはまた空を飛べるようになったと解説しています。

信憑性の高い答えのひとつは、“自分の才能を信じられなくなった”から。母親からもらったほうきが折れて空を飛べなくなったことが転機となり、新しくほうきを作って乗る練習をするけれど、上手く飛べなくなります。そしてどうして良いのか分からなくなってしまいます。

つまり、この作品はそんな甘ったれがひとりで生きていけるようになるためには、親を超えることが第一で、その親を越えて踏ん張って生きていく話だったのです。苦労をいろいろして、立派な魔女になっていく話ではなく、一人前の大人になる話だったのです。宮崎監督は、キキがまともな人間になるための修行をするっていう映画を作ろうとの思いで『魔女の宅急便』は制作されたのでした。

プレシネマ情報局に掲載された宮崎監督と高畑さんと鈴木さんの対談の中で、

宮崎監督が「うーん。突然、絵が描けなくなるんです。それまでどう描いていたのか分からなくなる。そういう経験ってないですか?それは理由なしに突然来るものなんです。説明できないですよ」と言うと、

鈴木さんが「そういえば、映画の中で、どうやって空を飛ぶのかと聞かれたキキが、「血で(空を)飛ぶの」と答える場面がありますね。それに絵描きの女性が「魔女の血、絵描きの血、パン職人の血。神様か誰かがくれた力なんだよ」と返す。それについて、高畑さんと宮さんが言い合っていたことがありましたね」と回想します。

「血」であらゆる職業が決まっているわけではないけれど、才能を持つというのを「血」で説明しているようです。

魔女の修行という成長ファンタジーと見せかけて人間的成長の話でした。

『魔女の宅急便 』ジジなぜ話せなくなった?

これも他の解説や評論などに、キキが成長したのでジジと意思疎通ができているけれど、ジジと話す描写をあえて視聴者に想像させるために描かなかったとか、キキが空を飛べなくなり、スランプから抜けきっていないために、話せないでいた。復活すれば、再びジジと会話できるようになるなどいろいろとあります。

トリビア③

魔法使いの女の子は使い魔の猫と話ができる。つまりジジと話せると原作にもちゃんとある設定です。原作には次のような説明があります。「魔女のお母さんは女の子が生まれたら同時期に生まれた黒猫を飼う。その黒猫はその女の子とだけ話せる特別な猫になる。しかし、女の子が恋をしたら猫も自分の相手を探して、その女の子は黒猫と別れることになる」

また、ジジが喋らなくなったのはキキが成長したからというのもありました。精神的に幼いキキにとっては、ジジは保護者やお目付役のような存在なので、ジジがいる間はキキは一人では生きていけないという解釈です。そんなキキが、新たな出会いや体験を経て、成長したことでジジはやっとその役目を終えることができた。互いに話せないのはネガティブなことではなかったというものもありました。

キキはどうしてジジと話せなくなったのか。その理由は「ミスリード」のせいで見えにくくなっていたと、オタキングの岡田斗司夫さんが解説しています。

🔸詳しくはこちらをどうぞ!⇒ 岡田斗司夫公式ブログ

この答えがはっきりするのは、キキが旅に出るときに使ったほうきが大きなポイントになります。

つまり、「お母さんがくれたほうき」です。そしてもうひとつ重要な目安となる13フェイズを紹介します。

🧹『魔女の宅急便』の13フェイズ🧹

①日常 魔女の少女・キキ、精神的にも技術的にもまだまだ子供
②事件魔女は13歳になると独り立ちする為に町へと旅立つことに
③決意※「ジジ、今日に決めたわ」
④苦境町に到着したが、右も左も分からない
⑤助け母からもらったほうきの助けで宅急便を始め、様々な人たちとの交流を深めていく
⑥成長トンボに対して、今まで心の中に隠していた「本当の気持ち(嫉妬心・暗黒面)」を表現することができる
⑦転換お母さんからもらったほうきが折れて空を飛べなくなる
⑧試練新しく作ったほうきに乗る練習をするが、上手く飛ぶことができず、どうしてよいのか分からなくなる
⑨破滅※「魔法がなくなったら…何の取り柄もなくなっちゃう」
⑩契機森に住む絵描きウルスラとの会話 ※「この絵、本当は消しちゃおうかって何度も思ったんだよ」
⑪対決飛行船から落ちそうになるトンボを救うためにほうきに乗るキキ※「飛べっ!」
⑫排除無事にトンボを救うことに成功 ※「えらいよ、キキ。よくやったねぇ!」
⑬満足お母さんの元へキキからの手紙届く ※「落ち込むこともあるけれど、私、この街がとても好きです」

キキの抱える問題は「一人前ではない」ことでした。劇中でキキが成長することで問題が解消されていく話となっています。

13フェイズでは、前半は何かの助けで成長する主人公が、後半はその助けなしで成長する構成になっています。太字の第7フェイズまではお母さんのほうきの助けをもらってキキは空飛ぶ宅急便を始めて、沢山の人と出会い、交流を深めて成長していきます。

第8フェイズからはお母さんのほうきが壊れてしまい、その後は苦悩し、自分の力でなんとか成長していく展開となります。

魔女の宅急便はどこの国?

大いに参考にした場所がジブリの公式サイトに紹介されています。

スウェーデンのストックホルム、バルト海のゴトランド島ヴィスビーの町

作品の中でキキの未来の姿が分かる!?

現在・キキ(13歳)が成長していくと、ウルスラ(18歳)になり、次はおソノさん(26歳)になり、その後キキのお母さんのコキリ(37歳)になり、最後にはキキの誕生日にケーキを焼いてくれた老婦人(70歳)へと成長していくと言われています。

まとめ

映画『魔女の宅急便』に秘められたメッセージとは?」は如何でしたか。

きっと、ご存じだったものもあったかもしれません。もし、もし新たな発見や解釈があったら、ぜひご家族や友人知人とシェアしてくださるとより深くこの作品を楽しむことができると思います。

主人公・キキの人間的成長を描いた『魔女の宅急便』。実は『千と千尋の神隠し』と同じ構造でした。ダメな両親に育てられた甘ったれの女の子が厳しい環境で修行をすることで、成長し、問題を解決していくというのは全く同じ。

それなのに、「この両親、子供に甘すぎてダメっぷりすごいよね」と伝えているつもりが、ほとんど私たち視聴者に伝わっていませんでした(苦笑)。それをリベンジするつもりで『千と千尋の神隠し』が制作されたようです。

宮崎アニメ、調べれば調べるほど違う見方が出てきて本当に面白いです。この機会にもう一度作品に触れてみるのも良いかもしれません。

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