『ハーバードの人生を変える教室』はおすすめの名著です。この本の著者、タル・ベン・シャハ―さんはポジティブ心理学の専門家で、僅かなプラスでも、たとえゼロであっても、どうしたらプラスにできるかということを研究しています。
つまり、どうすれば人は幸せに生きることができるのか、充実感をさらに感じる人生を歩むことができるのかを学術的な研究を進めてきたものです。
タル・ベン・シャハ―さんはハーバード大学で哲学と心理学を研究された方で、行動組織論で博士号を取得しています。彼は2002年からハーバードでポジティブ心理学のクラスを受け持ち、当初参加した学生はたったの8名でした。
ところが、数年後の2006年には855名の学生が参加し、大学で受講者数第1位の人気の授業になりました。そして、そのもっとも殺到したタル・ベン・シャハ―さんの授業を書籍化したものが『ハーバードの人生を変える教室』なのです。
🔽『ハーバードの人生を変える教室』
この本には授業で実際に使われた自分の人生を変えるための50のワークが紹介されています。そういう意味では実践型の心理学の書籍なので、今からすぐに使える知識であり、ワークをひとつずつ進めていくことで、人生に変化を与えてくれることは間違いありません。
そこで今回は前編で、特に覚えておいた方が良い知識や絶対に抑えておきたいところをご紹介します。
『ハーバードの人生を変える教室』から学ぶポジティブ心理学とは?
タン・ベン・シャハ―さんはポジティブ心理学の第一人者と言われている人です。ポジティブ心理学とは、主にうつ病など、悪化した心の状態を研究する従来の心理学に対して、人が幸せに生きるとはどういうことなのかという研究をする学問です。
シャハ―さんは16歳のときにスカッシュという競技でイスラエルのチャンピオンになったそうですが、それなのに幸せになれなかったそうです。その経験がきっかけで、大学で心理学を学び多くの成功を収めているのに不幸せな人たちを観察して、幸せに生きるとはどういうことなのかというのを研究してきたそうです。
シャハ―さんがハーバード大学で「幸せな人生を生きるには」というテーマで授業を行い、その授業が瞬く間に評判を呼び、ハーバードで人気ナンバーワンの授業に選ばれました。その授業の中で語られたことを一冊にまとめたのが今回紹介する本です。この本は実践的に幸せになるための方法を学べます。
授業というと一方的に知識を披露されるのかと思いますが、この授業はワークアウト形式で、理論を紹介し、それを自分で紙に書くなどしてそれを実践していく形式で行われます。
ある意味、自己分析が近いかもしれません。実際にやってみた人の中には実践している途中で号泣したそうです。それほど人の心の深い部分に影響を与えるワークアウトですので、ぜひ皆さんも気になったものがあれば是非やってみてください。
『ハーバードの人生を変える教室』6~10位
【10位】困難から学ぶ
私たちの社会では、「幸せになりたい」から「幸せでなければならない」という思い込みに囚われている人が増えていると聞きます。とくにアメリカではそういう思い込みに囚われる傾向があるとされています。本書ではその批評は当たっていると言います。正確には、
「幸せでなければならない」<「楽しさがすべて」
だと考え、幸福になるためにその場しのぎの問題解決法や自己啓発本、そして精神科の薬で回避しようとしています。
🔸人はどうしたら幸福になれるのでしょうか。
不快な感情や辛い体験が幸せに生きるきっかけをくれるかもしれません。困難を克服することで人は幸せになれます。困難な時期を克服してこそ、より大きな喜びを感じ、人生におけるすべての喜びに感謝できるようになります。その気持ちこそが生命の源に通じ、生きる力となって返ってきます。
精神科医ヴィクトール・フランクルは、「人間が本当に必要としているのは不安のない状態ではなく、価値のある目標のために努力することである。人間に必要なのは何としてでも不安を取り除くことではなく、意義の達成に使命を感じることである」と語っています。
- 人は困難を克服することで幸せになれる
- 困難な時期があるからこそ、より大きな喜びを感じられるようになる
🔷ワーク(過去の経験を書き出す)
辛かったり、苦しかった経験を書き出してみましょう。テキサス大学のジェームズ・ペネベーカー氏はこのワークをすることによって、気持ちの整理がつきやすくなることを立証しました。
被験者に4日間連続で毎日15分から20分間、怒りやトラウマなど自分自身で辛かった経験をできる限り心を曝け出してもらうように書き出してもらいました。その結果、被験者の不安感は減少し、それに対して幸福感が増加、さらには健康状態も改善されたそうです。
過去の辛い経験を整理し、振り返ることで、人は癒されていくことが分かります。
★作家のマルセル・ブルースとは次のような名言を残しています。
「傷ついたことを完全に表現してはじめて、私たちは癒される」
【9位】感謝する
フォーブスジャパンの2018年2月21日に掲載された『感謝する人が常に成功する理由』という記事には、感謝する人にはチャンスが舞い込みやすく、感謝する気持ちが幸せを生み出すと紹介しています。
🔸頂点に上り詰めた時に感謝するのは簡単。でも、苦難が襲い掛かった時に感謝の気持ちを持つのは難しいという人はどうしたらいいのでしょうか。
🔷ワーク(感謝できることを5つ書く)
心理学者のロバート・エモンズとマイケル・マッカローは、被験者を2つのグループに分け、1つのグループには、ちょっとしたことでかまわないので、毎日、感謝できることを5つ書いてもらうという実験をしました。毎日1~2分くらい感謝できることを書く時間をとったことで、思いもかけない効果が表れたそうです。
感謝の時間をとったグループは、何もしなかったグループに比べ、肯定的に人生を評価できるようになり、さらには幸福感が高まり、ポジティブな気分を味わうようになったそうです。
要するに、もっと幸福になり、意思が強くなり、楽観的でエネルギッシュになったのです。今日は何を書こうかと思って毎日を送ることで、普段から起こる良いことにも気づきやすくなるのでしょう。
- 感謝をしていた人は、よく眠れるようになる
- より多く運動をするようになり、身体的は不調も減った
このワークを習慣化することで特別な出来事を必要としなくなると言います。あなたが感謝できることは何ですか。人生で有難いと思うことは何か意識を向けていくうちにその意識は拡大していきます。
★テレビ番組司会者のオプラ・ウィンフリーは次のような名言を残しています。
「意識を向けるものは拡大します。恵まれた部分を考えれば、人生はもっとよくなります。何が起きようとも感謝できるようになると、チャンスやいい人間関係、お金までもがもっと流れ込んでくるようになりました」
【8位】偉業を観察する
人は憧れの著名人や有名人を見て、自分もあの人のようになりたい、なってみたいと思うものです。なってみたいけれど、自分には到底無理な話と何度も諦めのような感情を抱いた経験があるのではないでしょうか。
このワークはそんな自分たちにも達成できるかもしれない思考を身につけるものです。心理学者エレン・ランガー教授は学生を2グループに分け、偉大な業績を上げた科学者たちの知能について実験しました。
最初のグループには科学者たちがどうやって成功に到達したかについて情報を全く与えませんでした。学生たちは科学者たちの成功は普通では成し遂げられるものではなく、彼らの知能は非常に高いと位置づけました。
一方、2番目のグループには、同じ科学者たちの業績を知らせ、成果のみならず、試行錯誤した成功までのプロセスも情報として提供しました。第2グループの学生たちも科学者たちの偉業に感銘を受けましたが、評価は最初のグループとは大きく違いました。彼らの業績は学生たちにも達成可能なものであると評価したのです。
🔸それでは、どうやって成功を勝ち取ることができるのでしょうか。
まず、自分が達成したことについて考えてみます。それを達成するためにどのような苦悩や浮沈、困難がまちうけているのでしょうか。それを踏まえてワークをやってみます。
🔷ワーク(成功までの道筋をつくる)
- 「達成できないのではないか」と不安に感じている、どうしても達成したい目標を書き出してみましょう。
- どうやってその目標を達成するかを書いてみましょう。そこに成功するのに必要なステップ、直面するかもしれない障害や試練、それとどうやってそれらの困難を克服するかも付け加えましょう。
- また、待ち受けているかもしれない落とし穴はどこにあって、もしそこに落ちてしまったら、どうやって這い上がるかも考えておきましょう。
- 目標に到達しているイメージしてみましょう。どのように到達したのかを書き出してみましょう。
※できるだけビジュアライズできる冒険物語(『プロフェッショナル・仕事の流儀』で成功した自分を取り上げられている体で考えてみても面白いかも)のように話を展開させてみましょう。
- すべての成功にはそこに至るプロセスがある
たとえば、「一夜にしての成功」が満ち溢れているように見える有名人が沢山います。俳優やミュージシャンなど目立った職業ほどスポットライトを浴び、彼らはとても輝いて見えます。ところが彼らは成功するために長い年月をかけて積み上げてきた努力があり、厳しくて辛い下積み時代を経験してきているのです。
著書には、人は他人の成功を見るときに、そこに至るために費やしてきた時間やエネルギーは軽視してしまいがちと言及しています。または、それらの成功は私たちが達成し難いものであり、超人的な才能がなければ成し遂げられないと考えてしまう傾向があると言います。
誰かがどうやって成し遂げたのかを検証していくことで、現実的に彼らが苦労しながらも困難を乗り越えていることが分かり、自分たちもそこまでやれば実現可能ではないかと思えるようになります。一歩ずつ課題をこなしていけば達成できる、順番に階段を上っていけばいいのだと理解することができます。
★発明家のトーマス・エジソンは次のような名言を残しています。
「天才とは1%のひらめきと99%の努力である」
【7位】成熟する
健康的で長生きできる人生を送るためには、現実を受け入れ、「老いる」ことについての考え方を見直す必要があります。歳をとると、肉体的に動作が遅く、鈍くなります。シワやシミも増え、性的衝動も減ります。その反面、精神的には知性や感情が成熟することができます。
つまり、齢を重ねることで、悪い面ばかりでなく、良い面もあることを忘れないようにしたいものです。確かに年齢とともに予期せぬ形で病気になる可能性が高くなります。しかし、同時に歳をとったからこそ得られる利益もあることも事実です。
- 感情や精神が成熟するのに近道はない
- 健康的に老いるとは、年齢を重ねるごとに加齢によって起こる問題を前向きに受け入れ、それと同時に年齢とともに増える成熟のチャンスをしっかりと享受すること
見るもの、聞くもの、物事への理解、感謝の気持ちなど、70代、80代のころと20代、30代のころとでは感覚が断然違います。物事の分別、生活の知恵、知性、そして洞察力は時間と経験によって磨かれていくのです。
🔸健康的で長生きできる人生を送るために、どのように成長しましたか。また、今後どのようにその成長を継続しますか。
🔷ワーク(人生の先輩の話を聞く)
年上の人や何かの分野で豊かな経験を持つ人と会話する機会を作りましょう。失敗や誇りに思っていること、その体験から何を学んだのかを聞いてみましょう。しっかりと傾聴して、そこから何が学べるか考えてみます。
経験によってのみ、得られる知恵があることを学ぶことができたら、歳を重ねることに対する考え方が前向きになります。
★心理学者のウィリアム・ジェイムズは次のような名言を残しています。
「若くありたいとか、やせていたいとかいう思いから解放されるのはなんと心地よいことだろう」
【6位】プロセスを楽しむ
幸せになりたいだけなのに、失望感や失敗ばかりで後ろ向きになることがあります。将来の夢や希望を叶えるために今の利益をあきらめて、受験勉強や将来の貯蓄、または仕事に専念しなくてはならないからです。
毎日勉強したり、何十時間も働くことが続くと、将来の大きな目標や利益のために必要と分かっていても、時として面白みのない生活に辟易してしまいます。
そうは言っても、将来の大きな利益を得るにはやはり行動、努力は必要不可欠であり、その延長線上でしか幸福は得られません。たとえ将来の目標や夢を変更することになっても、将来の自分に役に立つ行動や活動に、できる限り時間をかけることが大切です。
🔸それでは、自分の将来の役に立つ活動を続ける秘訣はなんでしょうか。
兎角、日本人は真面目で職人気質の人が多いので、時々苦痛を避けたり、解放するために快楽主義者になってみることです。今の利益をあきらめず身の丈の利益に焦点を当ててみると、意外と簡単に元気を取り戻すことが出来ます。
学業や労働の後に好きな映画を観る、大好きなスイーツ屋に行く、森林浴に出かける、など時にはのんびりと楽しむ時間を設けて、リラックスできたら私たちは幸福感を味わうことができます。
未来にも役に立ち、現在も楽しめる活動をしたことを思い出してみます。回数や期間にとらわれなくて大丈夫です。
🔷ワーク(ライフスタイルを分類する)
4つのライフスタイルについて考え、それぞれのライフスタイルを実践していた時期や体験を4日間連続して1日15分間で書き出してみます。一日につき、1つのライフスタイルについてのみ書きます。内容は、
- 感情(当時はどう感じていたか、そして現在、どのように感じているか)
- 行動(どんな行動をしていたか)
- 考え方(当時どう考えていたか、そして現在、どのように考えているか)
全部含めて書いてみてください。また、夫々のモデルは下記に説明します。
- 出世競争型:つねに将来の目標を追い求め、激しい競争の中に身を置き、毎日の生活を楽しむことが出来なかった時期について書きます。どうしてそのように生きていたのでしょうか。そのように生きることによって得られた利益とはどんなものでしたか。また、そのためにどんな代償を払いましたか。
- 快楽型:結果を考えることなく、目の前の楽しみだけを求める快楽主義者として過ごした時期、および快楽主義的な体験について書いてください。そのように生きたことから何が得られたでしょうか。また、そのためにどんな代償を払いましたか。
- 悲観型:悲観的になってしまった体験、もしくは無力感にとらわれていた時期について書いてください。そしてそのときに感じた心の奥底の感情や考えを書いてください。書いている途中に湧いてくる気持ちや考えも書き出してください。
- 幸福型:とても幸せだった時期や感じた体験について書いてください。あたかもその中にいるかのように想像し、そのときと同じ感情をもう一度味わってみてください。そして、そのときの気持ちを書いてください。
★政治家のジョン・ガードナーは次のような名言を残しています。
「私たちは休むことなく登り続けるようにできています。たとえそこが谷底であっても、山の頂であっても」
◆🔷◆
◇まとめ◇
それほど人の心の深い部分に影響を与えるワークアウトですのでぜひ皆さんも気になったものがあれば実践してみてください。次回は後編で、絶対に覚えておきたい知識や押さえところをご紹介する予定です。お楽しみに…。
🔽『ハーバードの人生を変える教室』
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🔸Author:あみ(Ami)🔸
メディアプロデューサー/英語講師
日本の私立短大家政科卒。証券会社に就職後、渡米。大学でテレビ、ラジオ、及び映画制作を学ぶ。卒業後、日本のテレビ・ラジオ・出版などマスメディアの仕事に従事。趣味は文化・伝統芸能・ヨガ・バレエ・料理。近年は心理学・歴史・神社仏閣の造詣を深める。2019年、神社検定弐級合格。