『神嘗祭(かんなめさい)』というお祭りをご存知ですか?
毎年10月15日から17日にかけて、日本全国に8万社以上神社がありますが、その中心である伊勢神宮で執り行われる由緒深い祭典です。古来からお米を主食として生きてきた日本人にとって重要な祭祀なのです。
それでは『神嘗祭』とは、どういうお祭りなのでしょうか。
その年に収穫された新米を最初に天照大御神(あまてらすおおみかみ)に捧げ、その恵みに感謝します。
巡礼者が五穀豊穣を祝うことが起源となっているアメリカのサンクスギビングと似ています。そこで今回は、西洋の感謝祭よりも長い歴史をもつ『神嘗祭』の祭典内容や由緒について、また関連のお祭りも合わせてご紹介致します。
『神嘗祭』国の安寧と五穀豊穣を祈る!
『神嘗祭』は、日本の神社の中心的存在である伊勢神宮(以下神宮)で行われます。神宮の一年は神嘗祭を中心に回っていると言っても過言ではありません。
その年の新穀を大御神に捧げ、お恵みに感謝すると言っても、具体的にはどのように、どういった形で執り行われているのでしょうか。
『神宮のお正月』とたとえられる『神嘗祭』
もっとも格式の高い神社である神宮は、皇室の祖先神である天照大御神をお祀りする内宮と、その食事のお世話をする豊受大神をお祀りする外宮の両正宮を中心に、大小125の別宮および摂社、末社、所管社からなっています。
その神宮で神嘗祭があり、五穀豊穣、国家繁栄を願うことから『神宮のお正月』とも呼ばれています。上皇上皇后両陛下の長女黒田清子さんが祭主を務められます。祭主とは、天皇陛下の勅使として10月の神嘗祭、2月の祈年祭、6月と12月の月次祭という大祭を主宰する神職のことです。
神宮の神職の方々が執筆、編集した本『図解 伊勢神宮』には、神嘗祭について次のように説明しています。
賢所に新穀をお供えになる神恩感謝の祭典。この朝天皇陛下は神嘉殿において伊勢の神宮をご遥拝になる
引用:図解 伊勢神宮
神嘗祭当日の朝には、皇居内にある神殿で天皇陛下は自ら神宮をご遥拝になります。年間1500回におよぶ神宮の祭祀の中で、もっとも重要なのが神嘗祭であり、神宮の一年はこの神嘗祭のためにあると言われています。
当日、神宮では秋の収穫を天照大御神に感謝する『由貴夕大御饌(ゆきのおおみけ)』から始まります。御米、御塩、鮑、鯛、伊勢海老、野菜など収穫されたものを調理した40品目もの特別の献立が大神に捧げられます。その中でもっとも重要なのが御米です。
毎年10月15から17日にかけて、外宮から神事は執り行われ、内宮は一日遅れで始まり、由貴夕大御饌(ゆきのおおみけ)と奉幣を中心として興玉神祭(おきたまのかみさい)、御ト(みうら)、御神楽(みかぐら)などの諸祭が次々に行われます。
附属祭典としては、さらに春に神宮御園で開かれる御園祭(みそのさい)、神宮神田で行われる神田下種祭(しんでんげしゅさい)、秋に行われる抜穂祭(ぬいぼさい)、御酒殿祭(みさかどのさい)、御塩殿祭(みしおどのさい)、大祓(おおはらえ)などがあります。
まさに神宮の年間のお祭りは、『神嘗祭』を中心に行われています。最初に神嘗祭を始めたのは持統天皇(第41代・天智天皇の娘)と言われ、宮中で行われるようなったのは明治時代以降だそうです。
神嘗祭の由緒・沿革
神宮でもっとも古い由緒をもつ『神嘗祭』は皇室の大祭です。天皇陛下が自ら皇居の御田でお米をお育てになり、紙垂(しで)がつけられた収穫したお初穂を神宮の天照大御神に捧げ、両正宮のご正殿を囲む御垣(みかき)のひとつ「内玉垣(うちたまがき)」に奉懸されます。
また、全国の農家から集められた初穂の束もずらりと御垣に掛けられるのですが、それを「懸税(かけちから)」と呼びます。
「税」は稲の上代語(じょうだいご)、つまり昔の言葉ですが、「ちから」と読みます。貨幣社会でなかった古代では、お金の代わりにお米が税金として納められました。
かつては神宮も神領民から税や式年遷宮の造営費用として課せられた役夫工米(やくぶくまい)で支えられていたことから、その名残とも言われています。
宮中でも天皇陛下が自ら皇居内の神殿で神宮を遥拝し、収穫の感謝と共に国家の隆昌・皇室の繁栄・国民の安寧などの祈りを捧げておられます。
『日本書紀』に記された祭典
地上世界を治めるために天下ろうとした瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)は、天照大御神から「稲穂」と「三大神勅(お言いつけ)」をお授けになられました。
その一つが『斎庭(ゆにわ)の稲穂の神勅』です。日本書紀には、天照大御神が瓊瓊杵尊に稲穂を持たせ、
吾が高天原にきこしめす斎庭の稲穂をもって、また吾が児にまかせまつるべし
「この稲穂を大切にし、米づくりを継承し、豊かな国としなさい」と述べられたと記されています。
お米は天照大御神から授かった日本人の生命の源。今日も神嘗祭をはじめ、新嘗祭や大嘗祭で天皇陛下がご親祭なされる理由です。伊勢神宮のHPにはお米と日本について次のように説明しています。
古来、日本の国は「豊葦原の瑞穂の国」と呼ばれ、水に恵まれ稲が立派に稔る国を意味します。私たち日本人にとって、お米は単なる食料としてだけではなく、神と人とを結ぶお供え物でもあります。
神宮では稲が芽吹き、そして稔るという稲作の周期と共に、年間1500回に及ぶお祭りが行われ、その中で大御神のご神徳をたたえ、ご神恩に感謝し、「国安かれ、民安かれ」と、国家の隆昌と国民の幸せをお祈りしています。
引用:伊勢神宮
伊勢市にある神田(しんでん)では、昔ながらの方法でお米が栽培され、神前に捧げるまでの生育過程で、祭祀がいくつも行われます。
伊勢市では、神宮に奉納する初穂曳(ひ)きが行われます。伊勢でつくられた初穂の他に、15日には大きな車輪の付いた木製台車、奉曳車(ほうえいしゃ)に全国から集まった初穂や米俵を載せて、外宮まで人の手で2本の白い綱を曳いて運ぶ『陸曳(おかびき)』を行います。
また、翌日の16日には、初穂や米俵をそりに載せて内宮まで運ぶ『川曳(かわびき)』が行われます。
米づくりにまつわる祭祀
その年の五穀豊穣を祈る2月の祈年祭に始まり、4月は神田下種祭(げしゅさい)が行われます。5月には御田植初(おたうえはじめ)があり、苗を新田に植えます。
夏を越して9月になると、新田の稲穂を刈り取る抜穂祭(ぬいぼさい)を迎え、収穫された稲穂は内宮の御稲御倉(みしねのみくら)に保管されます。
ちなみに「抜穂」の名称は、昔の日本人が石包丁を使って一本ずつ稲穂を抜き取っていた名残だそうです。
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令和3年・神嘗祭の予定
神宮の祭祀は、外宮で始まり、内宮の順番で行われる「外宮先祭」が習わしとなっています。神嘗祭も外宮から始まります。
🔷外宮(豊受大神宮)
- 由貴夕大御饌 10月15日(金) 午後10時
- 由貴朝大御饌 10月16日(土) 午前2時
- 奉幣 10月16日(土) 正午
- 御神楽 10月16日(土) 午後6時
🔷内宮(皇大神宮)
- 由貴夕大御饌 10月16日(土) 午後10時
- 由貴朝大御饌 10月17日(日) 午前2時
- 奉幣 10月17日(日) 正午
- 御神楽 10月17日(日) 午後6時
詳細は神宮の公式サイトでご確認ください。
https://www.isejingu.or.jp/ritual/annual/kanname.html
まとめ
10月に行われる神嘗祭は、11月の新嘗祭に繋がる重要な祭祀です。神宮をはじめ、全国にある神社、たとえば熊野那智大社、大國魂神社などでも祭典が行われます。日本人として重要な行事ですので、この機会に目を通して頂ければ幸いです。
近年、多くの人が日本人としての誇りを再確認しようとしている傾向がありますが、日本の伝統文化をより深く知ることで日本建国の精神が浮き彫りとなっていくと思います。そして、世界で長年国民の幸福を祈ってくださる元首は日本以外にいないことに気づかされるでしょう。
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🔸Author:あみ(Ami)🔸
メディアプロデューサー/英語講師
日本の私立短大家政科卒。証券会社に就職後、渡米。大学でテレビ、ラジオ、及び映画制作を学ぶ。卒業後、日本のテレビ・ラジオ・出版などマスメディアの仕事に従事。趣味は文化・伝統芸能・ヨガ・バレエ・料理。近年は心理学・歴史・神社仏閣の造詣を深める。2019年、神社検定弐級合格。