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パナソニック汐留美術館 【香水瓶】古代から香りが人を魅了してきた訳

更新日:

2021年1月9日から開催されているパナソニック汐留美術館『香りの器・高砂コレクション展』に先日行ってきました。古代オリエントから欧州の宮廷で愛用されたマイセンやルネ・ラリックなど、選りすぐりの香水瓶や、国内で扱われてきた伝統的な香道の道具類、香炉、そして香合などがずらりと展示されています。

人類が香りを生活に取り込み、それが次第に世界各地に浸透。各々の香りの文化が隆盛した歴史的な流れを知ると、香水だけではなく、それに付随して時代ごとに作られた香水の器や瓶などが芸術作品として洗練されてきたことも実感できます。

審美眼がある昔の人たちが作り上げた数々の香りの器を鑑賞すれば、あなたの眼識もきっと磨かれます。そこで今回は、香りの歴史を交えながら、『香りの器・高砂コレクション展』の模様をご紹介します。

パナソニック汐留美術館『香りの器・高砂コレクション展』

展覧会会期:2021年1月9日(土) ~3月21日(日)
開館時間:午前10時より午後6時まで(ご入館は午後5時30分まで)
※3月5日(金)は夜間開館 午後8時まで(ご入館は午後7時30分まで)

休館日:水曜日

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展示された香りの器とは?

展覧会では、高砂香料工業が収集してきた優美な器や瓶などのコレクションから、約240点を厳選して展示しています。古代オリエントの香油の壺から近代ヨーロッパで愛用された陶磁器やガラスの瓶など独特な様式美で魅了します。

また、日本国内の香りの文化を窺い知ることができる香道の道具類や贅を極めた漆工芸品、陶磁器、金工品の香炉や香合なども鑑賞できます。我が国の伝統的な香りの器の数々も興味深く堪能もできる展示会です。

それでは、撮影が許可された一部の展示物をご紹介します。

🔽展示会での作品

🔼被せガラス水玉文香水瓶
Overlay glass perfume bottle with polka dots
ボヘミア/19世紀
Bohemia/19th century
🔼被せガラス金彩草花文香水瓶
Overlay glass perfume bottle with botanical motifs in gold
ボヘミア/19世紀
Bohemia/19th century
🔼赤色ガラス犬文香水瓶
Red glass perfume bottle with canine motif
ボヘミア/19世紀
Bohemia/19th century
🔼青色ガラス鹿文香水瓶
Red glass perfume bottle with deer motif
ボヘミア/19世紀
Bohemia/19th century

🔽西洋で豪華で美しいガラスの香水瓶が数多く製造されてきましたが、ここで少しガラスについて調べてみました。

ガラス製造の技術

ニューヨーク州にあるコーニングガラス美術館の情報によると、古代から現代までのガラスの歴史について今のところ分かったことは、ガラスの用途は何世紀にもわたって劇的に変化し拡大してきましたが、ガラス製造の用途の1つである『香水瓶』に関しては、3500年近くほぼ一定化されているようです。

ガラス製造はメソポタミア(現在のイラクとシリア辺り)ではじまり、エジプトに広がりました。初期のガラス容器は主に、香水やその他の化粧品入れを製造しています。それらの容器は、『コア成形』によるものでした。『コア成形』とは、今わかっているのは、粘土と動物の糞を混ぜて成形したものを溶融ガラスの鍋に浸して、溶融ガラスが完全に包み込むことで作成していました。

溶融ガラスの層がまだ熱いうちに、対照的な色や柄のガラスをくっつけて装飾として容器に巻き付けたり、取り付けたりしました。ガラスが硬化して冷却された後、粘土と動物の糞で成形された材料を削り取り、容器の中を空にして完成させました。

🔼ガラス香水瓶、コア成形 
地中海東岸、紀元前599〜400年(高さ:9.5cm)
出典:東京新聞 『香りの器・高砂コレクション展』で展示されていた「マーブル文長頸香油瓶」1世紀

縞瑪瑙(しまめのう)の文様が施されたこの香油瓶は、東地中海沿岸部で発明された吹き技法。2色のガラスを溶かし合わせて宙吹きにしていますが、複雑で難解な技法らしく、一世紀限りの期間限定品のようです。現代でも再現は難しいとか。

香りの世界史

香料のはじまりは紀元前4000年頃と言われています。オリエント文明の時代、つまり、メソポタミアや古代エジプトまで遡ります。シュメール人は『レバノンセダー』(香りのする杉)を神への薫香を捧げるために使用していました。

古代エジプトでも、宗教儀式で香料や天然のオイルなどは貴重品として重要な役割を果たしています。香りで空気を清め、神々に捧げものをするのです。

国土の大半が砂漠のエジプトでは雨はほとんど降らず、夏は猛暑、冬は温暖であることから身体を清潔に保つ技術として香りをまとう習慣が高く評価されました。それが時間とともに良い香りは無病息災と生命力の証となりました。

古代エジプト人たちは、王様や貴族たちを永遠に保存しようと遺体に香料を念入りに塗り、ミイラにして埋葬しました。ミイラの防腐、殺菌、保存などのために香料を利用したのです。また、ツタンカーメン王の墓には、装飾が施された香水瓶が発見されています。

🔼ミイラを埋葬するエジプト人たち

当時に使用された香料は、レバノンセダーの他に白檀(びゃくたん)、シナモン、ミント、ミモザなどが含まれていました。16種の素材を調合し、薬として使用されていた「キフィ」というお香は、古代エジプトの祭司が作っていたことから、世界最古の調香師と言われています。

ヘナ、ミント、シナモン、イグサ、松脂、ジュニバーベリー、ミルラ、レーズン、ワイン、ハチミツをベースに、その他の香辛料や原材料を練り合わせてお香を作り、熱した炭の上に乗せて香りを充満させます。キフィのレシピは古文書にも記されているほか、寺院の壁にも記録として彫られています。

🔼香料を持つエジプト人たち

古代エジプトの香料は、現代で使われているものとほぼ同じ内容のものだそうです。当時の薬やお香は、今よりも香りが弱く、植物を液体や油脂に長時間つけこんだり、植物から直接圧力をかけてオイルを抽出したりしていました。当時はまだ蒸留の技術は持っていませんでした。

🔼ロータス(睡蓮)のにおいを嗅ぐ古代エジプト人たち

ガラス製造のところでも言及しましたが、当時はすでに化粧品があり、美容液やクリームに香料は欠かせない存在でした。当時の人たちの美意識は高く、衣類や帽子に香りを染み込ませて、それらを身につけていました。部屋を香りで満たしたり、体に香油をつけたりしていたことも分かっています。また、食品にも防腐剤として香料が使われていました

古代ギリシャ時代

古代ギリシャ時代になると、香油やお香の生産が盛んになり、入浴後に香油を体につける習慣が広まりました。その証拠に、2007年にはキプロスで、世界最古の香水の製造工場が発掘されています。

古代ギリシャも香油やお香は葬儀や宗教儀式には欠かせないアイテムでした。香りは神殿や礼拝者にとって必要不可欠で、身にまとうことで崇拝する神により近づくことができると信じられていたのです。

香油やお香は、当時の人々に香りをまとわすためだけに使用したわけではなく、空気を汚さないようにするためでもありました。当時は汚れた空気は病気を蔓延させると信じられていたのです。

西洋医学の祖であるヒポクラテスは、ヒポクラテス全集に「空気(風)が病気を引き起こす」と記しています。ひいては、香りが病気の治療に効果があることに言及したのです。そのために、当時の人々は香油やお香の香りを充満させることで、病気を防いでいたと言われています。

香料はギリシャからローマに伝わり、香油やお香が宗教儀式や葬儀などで愛用されました。お香や香油が神々や王族のためだけのものだった古代エジプトとは違い、古代ローマ時代には幅広い層の人々に利用されました。ローズ、スミレ、そしてジャスミンウォーターなどが主流で、寝室や浴室に香りを焚いて用いるようになりました。

この当時もまだ蒸留技術がなかったので、原材料を油に付け込んで香りを抽出しました。安価な香水には陶器の瓶、高価な香水には豪華な小瓶がそれぞれ使われ、露店や専門店で販売されました。

ローマは、「テルマエ・ロマエ」でご存知の通り、社交用建築物の中心部にあったローマ風呂の遺跡が数多く残されています。入浴とサウナなどを楽しんだ貴族や裕福層の人たちは、身体中に香油を塗抹しました。

部屋や衣類に香りをつけるための個体や粉末の香料が生産されるようになり、軽量で高価なこれらの香料は交易で頻繁に取り扱われるようになります。当時の香料の価値は、香辛料とともに金銀より高価だったと言われています。

交易はアラビア半島やインド、そして中国まで展開し、公益が盛んになるにつれて香料を入れる容器の需要が高まり、ガラス製造の技術もさらに発展していきます。

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🔽展示会では、他にもこんな素敵な香水瓶がありました。

🔼赤色被せガラスエナメル金彩人物香水瓶
Red overlay glass perfume bottle with human figures in enamels and gold
ボヘミア/19世紀
Bohemia/19th century
🔼ガラスぶどう文香水瓶 
Glass perfume bottle with Botanical motifs
ボヘミア/19世紀
Bohemia/19th century
≪まとめ≫

次回は、中世から近代までの香水の歴史のプチ情報を交えながら、パナソニック汐留美術館『香りの器・高砂コレクション展』で鑑賞した他の香水瓶をご紹介します。お楽しみに…。

(つづく)

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🔶Author:あみ(Ami)🔶
メディアプロデューサー/英語講師
日本の私立短期大家政科卒。証券会社に就職後、渡米。大学でテレビ、ラジオ、及び映画制作を学ぶ。卒業後、日本のテレビ・ラジオ・出版などマスメディアの仕事に従事。趣味は文化・伝統芸能・ヨガ・料理。近年は心理学・歴史・神社仏閣の造詣を深める。2019年、神社検定弐級合格。

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