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噂のフェルメール展 上野の森美術館 その②

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上野の森美術館

光と影を操る「光の魔術師」と呼ばれた17世紀のオランダを代表する画家、ヨハネス・フェルメール。現在、フェルメール展は上野の森美術館で開かれていますが、今後の予定は以下のようになっています。

・上野の森美術館:2018年10月5日~2019年2月3日

・大阪市立美術館:2019年2月16日~5月12日

今回の美術展は日本初公開を含むフェルメール作品のほかに、同時代の画家、ハブリエル・メツーやピーテル・デ・ホーホ、ヤン・ステーンなど、約50点が楽しめます。

海洋帝国だった17世紀のオランダは、貿易で経済的、文化的にも発展し、「栄光の17世紀」を謳歌しました。まさにこの時代に育まれた巨匠たちが生み出した洗練された絵画の数々。宗教画から風俗画へ、一般大衆の嗜好も変わっていった時代でもあります。

フェルメール・ルーム

光の差し込んだ廊下を抜けると薄暗い部屋の壁に8点の絵画が出迎えてくれました。光の魔術師が描いた作品がすべてこの部屋に展示されています。

1.「マルタとマリアの家のキリスト」

この作品はフェルメールの原点で、デビュー作。20代後半で描かれた唯一の宗教画です。「ルカによる福音書」に登場する給仕のマルタは、妹のマリアがキリストの話を聞き入って手伝わないと苦言をすると、キリストは熱くならないようにとさとしているシーン。

このころは聖書や神話をモチーフにした「歴史画」を手掛けていましたが、フェルメールはその後、一般庶民のふとした一瞬を絵画に落とし込む「風俗画」に挑むようになりました。

2.「取り持ち女」 

この作品は日本初公開で、期間限定で1月9日から最終日までの展示されます。

「歴史画」から「風俗画」へ転向する時期に描かれた作品。試行錯誤した末に完成させたこの作品こそ、以後の作品の方向性を定めたと言われています。

3.「牛乳を注ぐ女」

フェルメール作品の中の傑作のひとつであり、最もよく知られた作品でもあります。今回再来日だそうです。柔らかい光が差し込む部屋で女性が台所仕事をするありふれた光景。それなのに、神秘的で穏やかな美しさが溢れています。女性が持つ水差しから注がれている牛乳の様子は、まるで動き続けているかのような錯覚を起こします。

テーブルの上のパンは、ポアンティエという点描画のような手法でハイライトを表現しています。

4. 「ワイングラス」

日本初来日の作品。描かれた素材の質感がじつにリアルで、こだわり抜いた光と影の表現で圧倒的な調和を表しています。その一方で、絵の中で描かれたさまざまな小道具から映画のワンシーンを見ているような感覚で、いつの間にかこの作品を私たちは想像力を駆使して観てしまいます。空になったワイングラスを口に当てる女性。その横で男性が金具のついた瓶を持ちながら、つぎ足すタイミングを図っている。椅子に置かれたリュートは男女の愛を暗示するそうです。

この二人は恋人同士?、それとも不適切な関係?。増々私たちの想像力は逞しくなります。小道具でストーリーを推測してしまうのもフェルメール作品の魅力です。

5. 「リュートを調弦する女」

これはフェルメール中期の作品。絵の具の摩耗や損傷している部分が激しいうえに、過去にこの作品が誰の手に渡っていたのか過去の記録がなく、謎の部分が多いそうです。同時期に描かれた他の作品には美人画が多く、例えば、「真珠の耳飾りの少女」と比べると、画面の女性の表情はエキセントリックで室内はミステリアスな雰囲気が漂っています。彼女の手には愛を暗示するリュート。床に無造作に置かれた楽器(ヴィオラ・ダ・ガンバ)や楽譜は、もうひとりの奏者の存在を仄めかしています。

窓の外にふと視線を向けた女性の先には、演奏を楽しんだ人物が家を出て行ったのか、それとも今ここにこない一緒に演奏するはずの人物に思いを馳せているのか…。いろいろ想像しながら鑑賞するのも楽しいですね。

6.「真珠の首飾りの女」

うっすらとした光が差し込む部屋で、女性は顔が映るぐらいの大きさの鏡を見ながら身支度を整えています。彼女は真珠のリボンを持ち上げて鏡に映った自分の美しさにうっとりと酔いしれているようにみえます。

ステンドグラスから通した光が生み出す緻密な色彩と構図のバランスがじつに絶妙で、観れば観るほど作品に引き込まれていきます。当時はネックレスの金具がまだなくて、リボンを使っていたそうです。

7.「手紙を書く女」

薄暗い部屋で机に向かって手紙を書く女性が、こちらの存在に気づき、ふとこちらに顔を向けて微笑んでいます。フェルメール作品の中でいくつも手紙を書く女性は登場しますが、顔を向けて微笑むのは唯一この作品だけです。

興味深いのは、本作の女性の微笑みに魅了されたコレクターは過去に多く、有名なのはアメリカの大富豪、ジョン・ピアポンド・モルガンをはじめ、オランダやベルギーなど数多くのコレクターの手に渡りました。現在はワシントン・ナショナル・ギャラリーに寄贈されています。

8.「赤い帽子の娘」

フェルメール作品の中では違った雰囲気を持ち、強い光によるハレーションで、女性の姿がぼやけてしまっています。また、作品の大きさはA4サイズよりも一回り小さいサイズです。さらに、キャンパスではなく、木のパネルで描かれているのも興味深いです。

女性の唇や耳飾りなどハイライトを施し、肌にうるおい感を出すなど、フェルメールの光のテクニックは劇的な視覚を生み出しています。

9.「手紙を書く婦人と召使い」

本作はフェルメール後期の作品です。机に向かって手紙を書く婦人と窓の外に視線を向ける召使い。二極化した部分が見事なコントラストとなって映画のワンシーンを観ているような錯覚さえ覚えます。内面に向かう婦人と外に気を向ける召使い、床もブラックとホワイト。それぞれの対比が内面の葛藤を示しているようです。

絵画の中に描かれた絵のことを「画中画」といいますが、画家が込めた何かしらの意味やメッセージが込められています。本作中にも旧約聖書の一場面「モーセの発見」が描かれています。王の脅威から逃れるために、川に流された幼子のモーセを王の娘が発見し、保護するという物語。もし婦人が恋人に手紙を書いているのなら、彼女の恋はモーセと同じように救われるのでしょうか。光の表現のみならず、画中画やモチーフなどに注目してみると絵画鑑賞はより楽しめることができますね。

🔼青い小冊子と音声ガイド

今回の美術展では来場者全員に音声ガイドを無料で提供していました。また、フロア図や作品解説が書かれた青い小冊子がもらえたのはとても良かったです。私が行った日はとくに混雑していたので、絵画に辿り着く前に、小冊子を読んで情報を頭に入れてから、絵画を観たので、より深く作品を堪能できたと思います。

通常、絵画の情報は絵の横に張り出されていたり、添付されたりしていますが、今までは人混みのせいであきらめてスルーすることも結構あったので、今回の小冊子はとても役に立ちました。他の美術展でもここは真似してほしい点ですね。また、無料で音声ガイドが利用できたのは嬉しかったですが、かなり限定された絵画だけだったので、あまり充実度は感じませんでした。また、もう少し解説を入れてくれると良かったかもしれません。

今年の2月からは大阪で開催されます。なにせ現存する作品がたったの35点しかない中の9点が出揃うという大変貴重な機会です。長蛇の列になることは必至ですが、ぜひ足を運んでみて下さいね。

次回は、フェルメールの技法について少しおまけ記事を紹介します。

(つづく)

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