「ただいま読書中」の一冊。書籍に関しては久しぶりの投稿です。ブログを始めたばかりの頃に気ままな感じで書いてました。アメリカに10年住んでいた私が、日本に帰国してから初めて「あの国」を深く理解したと言っても過言ではなかった。

 2011年まで、10年ほどロサンゼルスで暮らしていました。現地の大学でアメリカ史も学んだはずなのに、帰国してかなり経ってからたまたま手に取った一冊の本が、あのロスでの生活の時よりもずっと鮮明に「アメリカという国の素顔」が見られた気がしました。

 その一冊が、ビル・ブライソン著の『アメリカを変えた夏 1927年』(原題:One Summer: America, 1927)です。それでは紹介しますね。

目次

英雄も怪物も同じ人間『アメリカを変えた夏1927年』

🔼アメリカを変えた夏 1927年 (現代史アーカイヴス)

1927年の夏は、アメリカにとって「頂点の夏」だった

 1927年の夏に起きたことを並べてみると、後世に語り継がれるような出来事が立て続けにあった時代でした。チャールズ・リンドバーグが大西洋単独無着陸飛行に成功し、ベーブ・ルースが当時の年間本塁打記録となる60本を放ち、アル・カポネが犯罪帝国の全盛期を謳歌し、トーキー映画の第一作目が製作され、テレビの原型が開発されました。さらには、ラジオが急速に全国に普及、ヘンリー・フォードがモデルTの生産を終了し、マウント・ラッシュモアの建設が開始されたのもこの頃でした。

🔼ラシュモア山国立記念碑 出典:ウィキペディア

 これだけの出来事が、ほんの数か月の間に重なってニュースになりました。作家のビル・ブライソン氏はそこに着眼して、飛行、スポーツ、映画、政治、産業、犯罪など多岐にわたり、一冊の本に集約しています。その中には後世に残る歴史的な出来事が多く、「頂点の夏」としてアメリカの1927年を描いています。

 興味深いのは、この1927年をピークに、その後、世界大恐慌(1929年)へと向かっていきます。1927年の夏は、美しく燃え広がり、あっという間に消えていく大輪の花火のようであり、世界大恐慌が来ることを踏まえると、ブライソン氏の観点は、とても鋭く「黄金の黄昏時」だったと言えます。

伝記では知ることができなかった「偉人たちの人間性」

 この本で最も驚かされたのは、知っているつもりだった歴史上の人物たちの「素顔」でした。例えば、

チャールズ・リンドバーグ:大西洋単独飛行を成し遂げた「20世紀最大の英雄」として知られる飛行家です。神がかり的なその偉業に、彼が行くところに大勢が押しかけ、当時の人々は彼に熱狂しました。粗末な装備と体一つで大西洋を横断し、パリに着陸した時の光景は現代の私たちには想像できないほど凄まじいものでした。

🔼チャールズ・リンドバーグ 出典:ウィキペディア

 しかし、彼の死後に明らかになった事実は、あまりにも衝撃的でした。ドイツ、スイス、フランスの三カ国に愛人がいることが分かり、7人の隠し子がいたことが分かりました。アメリカではリンドバーグは愛妻家として知られていただけに、彼の裏の顔を知ったとき、「英雄」だった彼の虚像は崩れ、多くのファンは言葉を失ったと言われています。

ヘンリー・フォード:「自動車産業の父」として世界に名を轟かせた偉人です。ところが、この本に描かれたフォードも「天才」でありながら、「偏執狂」が同居した人物として、世間を騒がせた人物でした。

🔼ヘンリー・フォード 出典:ウィキペディア

 特に衝撃を受けたのが、「フォーランディア」のエピソードで、タイヤ用ゴムの独占供給を英国に握られていたことが気に入らなかったフォードは、「それならば自分でゴム園を作ればいい」と、ブラジルのアマゾン奥地にある広大な土地を購入。そこにアメリカ式の理想都市を建設しようとしました。

 結果は悲惨極まりないものでした。現地の自然環境と生態系を無視し、労働者には厳格すぎる生活ルールを適用。ろくに調査せずに見切り発車した結果、アメリカ式の食事や生活様式を現地労働者に強制したために反乱が起き、ゴムの木は病害虫にやられて育たず、フォードの経営のズレが露呈した事業でした。フォードは生涯、一度もその地を訪れることはなかったと言います。結局、その後も失敗が続き、ブラジル政府に土地を売却し、完全にしました。

🔼フォード・モデルT 出典:ウィキペディア

 「俺のやり方が絶対に正しい」という確信が、モデルTという低価格の夢の自家用車生んだ一方で、アマゾンに無用の廃墟を作りました。その二面性は、ご子息エドセル氏に悲痛なほど表われていました。温厚で有能だったエドセルは、父親に才能を認められることなく公衆の面前で数えきれないほど恥をかかされ、49歳という若さでこの世を去りました。周囲の人々は「ヘンリーがエドセルを殺したようなものだ」とさえ囁いたと言います。まさに、自動車業界だけでなく、最も冷酷で機能不全な「父と子の悲劇」と言われる所以です。

🔼フォード(デトロイト工場)
リバー・ルージュ・コンプレックス(River Rouge Complex)

 因みに、トヨタの創業者である豊田喜一郎が、1929年にフォードのデトロイト工場を視察し、流れ作業で凄まじい数の自動車が生産される方式から多くを学んだというエピソードがあります。フォードが築いた大量生産の事業は、のちにトヨタ生産方式として独自に進化し、やがてアメリカの市場を追い抜いていく――やがて日本のトヨタが生まれ、世界に名を轟かせていくことになります。

LAに住んでいたころよりも、帰国後にアメリカを「深く」理解した

 10年間ロサンゼルスで暮らし、現地の大学でアメリカ史の授業も受けました。勿論、リンドバーグもベーブ・ルースもフォードも、もちろん名前は知っていました。禁酒法やアル・カポネも、フーバー大統領も聞いたことがありました。

🔼フーバー大統領(第31代)

 しかし、それは「表層的な知識」に過ぎませんでした。この本は、まさに血が通った、当時の空気が感じられるような感覚で、出来事の背景に人間の欲望や矛盾や滑稽さが窺える。著名人たちの息遣いが感じられるほど鮮明で、1927年の夏が立体的に見えてきました。

🔼ベーブ・ルース ニューヨーク・ヤンキース時代

 1927年の夏は、輝かしい光だけではなく、闇の部分、例えば、優生思想、人種差別、女性への抑圧など、こうした影の部分にも向き合っています。単なる功績を賞賛するだけではなくて、「歴史の本」としての重みを与えています。

🔼アル・カポネ

 アメリカという国を、実際に現地に住んでいた頃よりも、この一冊を読んだ後の方が何とも皮肉なことに、深く理解できた気がしました。

まとめ

 1927年のアメリカの夏が特別であり、これほど多くのことが集中して起こっていたとは驚きでした。アメリカ史というよりも、そこで起きた出来事の総集編みたいなもので、当時に生み出されたものは100年経った今、我々は多大な恩恵を受けていることに気づきます。リンドバーグが命がけで飛んだ小型機が、今では毎日何万便もの旅客機が世界中を飛び交い、当時荒削りのテレビ映像が、今やスマートフォンやモニターで動画がどこでも見られる時代になりました。

 この本は544ページという長編で、しかも、章のタイトルと内容が一致していなかったり、時々戸惑ったりしたこともありましたけど、それでも読む価値は十分にあります。これからアメリカ留学や転勤される方、アメリカ史を学んでいる方はもちろんのこと、リンドバーグ、ベーブルース、フォードの名前は知っているけど、詳しく知らない方もぜひ手に取ってみてください。衝撃の事実が次から次へと明かされています。

おまけ(チャッピー情報2026年6月現在)

 チャッピーにアメリカ人にとってこの本の魅力についてどう思っているのか聞いてみました。結果は以下の通り。

🏆 アメリカ人が特に注目した人物・出来事 ベスト10

🥇 第1位 チャールズ・リンドバーグの大西洋単独飛行

1927年5月21日、リンドバーグが大西洋ノンストップ単独飛行を成し遂げ、パリのル・ブルジェ空港に着陸した瞬間、世界規模の熱狂が爆発し、彼は一夜にして地球上で最も有名な人物になった。アメリカ人にとって「20世紀最大の瞬間のひとつ」として、この本でも圧倒的な注目度を誇っています。 Goodreads

🥈 第2位 ベーブ・ルースの60本塁打

ベーブ・ルースが年間60本塁打という、スポーツ史上最も長く語り継がれた記録のひとつを達成した。野球はアメリカの国民的スポーツだけに、アメリカ人読者の反応は特に熱く、「あの1927年ヤンキースこそ史上最強チームだ」という議論が今なお続いています。 Amazon

🥉 第3位 ヘンリー・フォードとモデルT→モデルAへの転換

フォードのモデルTからモデルAへの切り替えが取り上げられており、フォーランディアの壮絶な失敗エピソードも含め、アメリカ人にとって「自分たちの産業の父」の光と影を改めて見つめ直す機会として強い関心を集めました。 Wikipedia

第4位 トーキー映画の誕生——『ジャズ・シンガー』

「ジャズ・シンガー」の撮影により、大衆娯楽が根本から変わったと、ブライソン自身もインタビューで真っ先に挙げるほど重要な出来事として位置づけている。ハリウッドの故郷・アメリカでは特に響くエピソードです。 NPR

第5位 アル・カポネと禁酒法の闇

禁酒法時代に政府が意図的にアルコールに猛毒(ストリキニーネや水銀)を混入し、密造酒として流通した場合に人々を傷つけ、死に至らしめるようにしていたという事実は、ブライソン自身が「学んだ中で最も衝撃的な事実のひとつ」と語っている。カポネの話だけでなく、この政府の行為への衝撃がアメリカ人読者の間で大きな話題になりました。 NPR

第6位 ミシシッピ川大洪水とハーバート・フーバー

アメリカ南部を未曾有の大洪水が襲い、その救援活動を「驚異的な能力と耐えがたいほどの傲慢さを持つ」ハーバート・フーバーが指揮した。次期大統領となるフーバーの人物像が鮮明に描かれており、アメリカの歴史ファンから高い注目を集めています。 Amazon

第7位 サッコとヴァンゼッティの処刑

無政府主義者として訴追されたサッコとヴァンゼッティの処刑が取り上げられている。冤罪の可能性をめぐり今なお議論が続くこの事件は、アメリカの司法と移民差別の歴史として、読者に重く響くエピソードです。 Wikipedia

第8位 マウント・ラッシュモアの建設開始

マウント・ラッシュモアの彫刻が始まったのもこの夏のことだった。アメリカの象徴とも言えるあの顔が1927年の夏に掘り始められたという事実は、アメリカ人にとって親しみとともに新鮮な驚きをもって受け取られています。 NPR

第9位 テレビの発明

若きエンジニア、ファイロ・T・ファーンズワースがテレビ開発につながる重大な技術的突破を果たした。「あのテレビが1927年に生まれていたとは」という驚きが、読者の間で特に話題になりました。 Goodreads

第10位 「サッシュウェイト殺人事件」——タブロイド文化の誕生

クイーンズの主婦ルース・スナイダーとその愛人による夫殺害事件は、全米を熱狂させた大スキャンダルとなった。これはタブロイド新聞という新現象の台頭と、セレブリティ文化の誕生を象徴する事件でもあった。後に映画『深夜の告白』や『郵便配達は二度ベルを鳴らす』の原型になったとも言われている。 NPR

感想

 如何でしたか?アメリカ人にとってこの本の魅力は、「知っているつもりだったことが、実はこんなにも深かった」という発見の連続にあったようです。ニューヨーク・タイムズ紙は、「時代そのものと同じくらい生き生きとしたスタイルで書かれた、魅力的な一冊」と評価されていました。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は「病みつきになるほど読みやすい」と絶賛されていたとか。アメリカ人の読者も口を揃えて当時の偉人たちの息遣いが感じられる一冊と語っているので、おすすめの一冊、手に取ってくださったら嬉しいです。

By Ami Fukunaga

カルカフェ☕ (Cultural Cafe)  このブログでは、日々の学びや旅、映画やアートのことまで、心に響いたことを自由に綴っています。近頃は神社仏閣巡り、伝統芸能やジャズ鑑賞が趣味の中心です。自宅で空き時間があるとちょこっとヨガやってます。あなたの暮らしにも、小さな発見や癒しがありますように。

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