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パナソニック汐留美術館【香水瓶】日本の香りと文化

更新日:

パナソニック汐留美術館で2021年1月9日から開催されている『香りの器・高砂コレクション展』。古代オリエントから欧州の宮廷で愛用されたマイセンやルネ・ラリックなどの香水瓶、そして国内で扱われてきた伝統的な香道の道具類、香炉、そして香合などが展示されています。

この展覧会では、高砂香料工業株式会社が香料や香水など、香りの文化を継承する資料や美術品の収集をしてきた中から、選りすぐりの240点に及ぶ芸術品が楽しめます。

今回は、前回に紹介し切れなかった数々の豪華で貴重な香水瓶も満載しました。それでは、日本の香りの歴史を織り交ぜながら、『香りの器・高砂コレクション展』の更なる魅力をお伝えします。

パナソニック汐留美術館『香りの器・高砂コレクション展』part3

展覧会会期:2021年1月9日(土) ~3月21日(日)
開館時間:午前10時より午後6時まで(ご入館は午後5時30分まで)
※3月5日(金)は夜間開館 午後8時まで(ご入館は午後7時30分まで)

休館日:水曜日

人類が香りと出会ったのは?

「Perfume」は、香料、香水など芳香を表す英語。Per(throught)+ fume(煙)という組み合わせでできた言葉で、人類が良い香りと出会ったのは、先人が火を熾して使うようになり、たまたま燃やした物質に芳香作用があったことが想像できます。その偶然が原始時代から習慣化され、現代に至ります。「香り」はまさに人類に欠かせない重要なものだったということですね。

Libanonzeder.jpg
出典:wikipedia
古代シュメール人はレバノンセダー
の薫香を神に捧げていました。

東洋と香文化

香料の起源を持つインド。シルクロードを通じて極東へ普及していく過程で、東洋では西洋とは対照的な香りの文化が開花します。紀元前5世紀頃の古代インドでは、スパイス、沈香、白檀などを焚き、使者を来世に送るという風習があったり、貴族たちが香膏を身体に塗布したり、また、良い香煙を楽しんでいたということが、バラモン教の聖典「ヴェーダ」に記述されているといいます。

「香」が中国に伝わったのは3~6世紀頃と言われ、香料は線香や薫香などに加工して使用されていました。西洋と東洋の交易路であったシルクロードは紀元前2世紀に流通していましたが、インドや欧州のように香料を装身目的や防腐処理などのために用いるようなことはまだありませんでした。

香りの国史

人類の歴史を振り返ると、どの地域であろうとどの人種であろうと文明を開化させたところには必ず「香り」が存在していました。そして、我が国も独自の香文化を発展させました。

6世紀の飛鳥時代に、「香」は仏教伝来とともに日本に伝えられました。奈良時代になると、唐の鑑真和上が白檀や沈香など香薬を調合して練り合わせてできた練香などを日本に伝え、供え香として仏壇において仏様に捧げられていました。

花を付けたシキミ、養老山地(岐阜県海津市)にて、2013年3月25日撮影
出典:wikipedia 
樒(しきみ)の葉には芳香作用があり、
水蒸気蒸留により精油が採れるという。

また、鑑真和上から樒という照葉樹の一枝を水につけておくことによって香水(こうずい)になると教わりました。

独自の香文化のはじまり

香は仏教とともに「祈りの香」として日本に伝来しましたが、時を経て平安時代になると、宮廷や貴族たちの間で、着物や部屋に香を焚く風習が流行し、「娯楽の香」へと発展していきました。

このような香のことを「薫物(たきもの)」といい、基本的な調合方法をもとに、自分の好みに微調整しながらオリジナルを創作するセンスの良い貴族たちがいたのです。

彼らが創作した薫物の中で優れたものは後世に引き継がれ、どんどん洗練されていきました。その代表的なものが「六種の薫物(むくさのたきもの)」といいます。六種の薫物は、「梅花」、「荷葉(かよう)」、「侍従(じじゅう)」、「菊花」、「落葉」、「黒方(くろぼう)」です。

日本書紀にも記された「香木」の話

日本書紀に記された香木の一説があります。

推古三年、淡路島の島民が漂流した一本の流木を火にくべてみると、あまりの香しい芳香に満たされ驚きます。なんとその流木は島民によって都に運ばれ、推古天皇に献上します。

その流木は稀有の至宝「沈香(じんこう)」であることを聖徳太子が伝えました。沈香は、水に沈むことに由来し、普通の木よりも比重が重いために「沈水香木」を省略したものが名前になったと言います。

沈香の画像
出典:wikipedia
「沈香」

その当時、「香」は平安貴族たちの知性感性を育む大切なスキルのような存在になり、自己の美意識の表現や身分の証となりました。「源氏物語」や「枕草子」などからも平安時代の香りのある雅な文化を窺い知ることができます。

「香」は戦国武将たちの嗜みに

鎌倉時代になると、武将たちが戦の合間に癒しとしてお香やお茶を嗜みにするようになります。貴族だけでなく、武士たちも次第に香木の価値を知るという美意識が生まれ、香木を焚いたり、香り比べをするなど嗜好の仕方も変化をしていきました。

香道の確立

武家社会になると、焚き比べなど嗜好も変化し、いくつもの香料を調合してできた香を聞く「聞香」が流行し、日本固有の香文化が開化します。室町時代には、香木を焚いて香りを鑑賞する遊びが発展し、「香道」が確立しました。三條西流と志野流が香道を現在も継承しています。

香道は、六国(りつこく)と言い、6種類の香木を使って組香をつくり、香席で一人ずつ順番に焚いた香をまわし、香の組み合わせを当てたり、香をかぎ分けたりして香の名前を当てて楽しみます。

江戸時代から明治時代へ

江戸時代には、商人や町人たちにも香が用いられるようになり、江戸に香りを楽しむ文化が生まれました。沈香の中で特に質の良いものを「伽羅(きゃら)」と言い、その伽羅はこの時代、「至上の宝」とされ、極上品として別格な扱いをされていました。こうして香文化が発展し、嗜好、娯楽として日本のココロの文化に必要不可欠な役割を担ってきたのです。

庶民が香料を使った化粧品を使うようになったのは江戸時代と言われています。初期は鬢付け油、中期には香油が中心に用いられ、後期になると化粧品が誕生し、多くの庶民に愛用されるようになりました。

近代

明治時代になると、香道は衰退していきましたが、香水などの西洋文化が輸入され、新しい香文化が国内に根付いていきます。

昨今、香道の真価が見直されて、日本各地でイベントが開催されています。茶道、華道と並び、香道も和文化として国際的に注目されるようになりました。

日本で化粧品だけでなく食品に本格的に利用されるようになるのは、大正以降に合成香料工業が発展してからのことです。日本で本格的に食品香料が製造されるようになると、食品の加工技術の発達とともに香料の分析・合成・調合技術は急速に進歩します。現在では世界のトップレベルです。

🔽展示会で観たその他の作品

日本の香炉や香合などもかなりの数が展示されていましたが、残念ながら写真撮影は禁止されていました。大陸から香が伝わってから日本では独自の香文化が発展していきました。その一つが「十種香」。この十種香は、室町時代に始まった最古の組香だそうで、10種類の香木の中から4種類を選んで焚き、香木の香りを聞いて種類を当てます。

当時、十種香を楽しむために用いられた道具が「十種香箱」。金粉が蒔絵に施され、豪華絢爛な芸術品です。

出典:東京新聞
🔼浜松塩屋蒔絵十種香箱 木製漆塗
Jisshu-ho box with Hamamatsu-Shioya design in maki-e 
日本 明治時代/20世紀 
Japan/20th century

🔽最後に数多く展示されていたラリック社の豪華な香水瓶をご紹介します。

🔼幾何学文香水瓶
Perfume bottle with geometric motifs
オーストリア/20世紀
Austria/20th century
🔼カール・パルダ 幾何学文香水瓶セット
Karl Palda Perfume bottle set with geometric motifs
オーストリア/20世紀
Austria/20th century
🔼ルネ・ラリック 香水瓶「二人の人物」
Rene Lalique Fleurs de Pommier
フランス/20世紀
France/20th century
🔼ルネ・ラリック 香水瓶「シダ」
Rene Lalique Fougere
フランス/20世紀
France/20th century
🔼ルネ・ラリック 香水瓶「光に向かって(ウォルト社)」
Rene Lalique Vers le Jour(Worth)
フランス/20世紀
France/20th century
🔼ルネ・ラリック 香水瓶「牧神の花束(ゲラン社)」
Rene Lalique Bouquet des Faunes(Guerlain)
フランス/20世紀
France/20th century
🔼ルネ・ラリック 香水瓶「ジェイソー」
Rene Lalique Jaytho
フランス/20世紀
France/20th century
🔼ルネ・ラリック 香水瓶「薔薇」
Rene Lalique Rose(Worth)
フランス/20世紀
France/20th century

マルク・ラリックは、1926年に父ルネ・ラリックとともにラリック社を設立。マルク自身も香水瓶の製作に携わりました。

🔼マルク・ラリック 香水瓶「いちずな願い(ウォルト社)」
Rene Lalique Vers le Jour(Worth)
フランス/20世紀
France/20th century

ニナ・リッチの依頼で、中央をハート型にくり抜いた香水瓶は、当時評判になったそうです。その後もニナ・リッチの「レール・デュ・タン」の香水瓶も手掛け、世界的に有名になりました。

🔼マルク・ラリック 香水瓶「喜びの心(ニナ・リッチ社)」
Rene Lalique Rose(Worth)
フランス/20世紀
France/20th century
まとめ

パナソニック汐留美術館『香りの器・高砂コレクション展』part1~3はいかがでしたか。古今東西の香りの文化を紐解いていくと、香りは全人類にとって欠かせない大切な役割を果たしてきたことが分かりました。

興味深いのは、日本の香文化も西洋と同様、「祈りの香」から「娯楽の香」にシフトしていったことです。普段、琥珀色の香水が入った香水瓶をただ、「綺麗だな」と思いながら眺めていましたが、香りの文化の奥深さを知ったことで着け心地も変わるかもしれませんね。

展覧会は今月の21日までです。日差しが暖かく心地よくなった昨今、散歩がてら少し足を延ばして出かけてみてはいかがでしょうか。

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🔶Author:あみ(Ami)🔶
メディアプロデューサー/英語講師
日本の私立短期大家政科卒。証券会社に就職後、渡米。大学でテレビ、ラジオ、及び映画制作を学ぶ。卒業後、日本のテレビ・ラジオ・出版などマスメディアの仕事に従事。趣味は文化・伝統芸能・ヨガ・料理。近年は心理学・歴史・神社仏閣の造詣を深める。2019年、神社検定弐級合格。

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