京都市北区に鎮座する上賀茂神社(賀茂別雷神社)は、神武天皇の御代である飛鳥時代(7世紀後半)に神山にご降臨され、賀茂神宮を造営したのが始まりと言います。日本で最古の神社のひとつです。世界文化遺産にも登録されており、境内には悠久の歴史と深い精神性が息づいています。
下鴨神社とはもともと一体の「賀茂氏」の氏神として崇められてきましたが、上賀茂神社は主祭神・賀茂別雷大神(かもわけいかづちのおおかみ)をお祀りし、雷(いかづち)の御神威によって厄を祓い、開運をもたらす社として、古来より朝廷から深く崇敬されてきました。
1300年以上の歴史を持つ上賀茂神社。知れば知るほどその神秘に心惹かれる日本最古の神社。

今回は、上賀茂神社をより深く楽しむために知っておきたい5つの見どころをご紹介します。ただ参拝するだけでなく、その意味を知ってこそ感じられる神秘と感動が、きっとあなたを待っています。

☆見どころ5選☆
1.向きが違う!3つの鳥居に隠された歴史の謎
上賀茂神社の参道を歩いていると、鳥居の向きが微妙に異なることに気づく方もおられるでしょう。実はこれ、偶然ではなく歴史的な意味が込められています。

一の鳥居(大鳥居)は、御園橋の手前に位置します。その向きは、現在の京都御所(南側)に向かって建てられています。神社が御所を見守るように、あるいは御所に向かってご神威を注ぐように建てられたとも言われています。
二の鳥居の向きは、平安京が築かれた当時の御所の位置——すなわち西側を向いています。都が移り、御所の場所が変わっても、創建当時のままの向きを守り続けています。
☞ここに注目!
一の鳥居と二の鳥居の向きがわずかに異なるのは、平安遷都(794年)を境に御所の位置が変わったため。1200年以上前の都の記憶が、いまも境内に刻まれています。
2.2つの神秘的な「立砂」と陰陽の宇宙観

細殿の前に、白く盛り上がったふたつの砂山が並んでいます。これが「立砂(たてすな)」と呼ばれる神聖な砂。上賀茂神社で最も印象的な光景のひとつです。

出典:京都新聞
この立砂が模しているのは、「神山(こうやま)」という山です。約2600年前、上賀茂神社の主祭神・賀茂別雷大神が天からご降臨なさった場所とされています。お祭りの際には、神様に来ていただくために、その神山を砂で再現し、神様を招いてきました。
☞なぜ2つあるのか?―陰陽思想の宇宙観

「この世のすべては陰と陽から成り立ち、ふたつが調和することで万物が循環する」という陰陽思想を体現しています。左の砂には松の葉が3本(奇数=陽)、右の砂には2本(偶数=陰)差してあり、世の理(ことわり)が目に見える形で表現されています。
古くから松は神霊の宿る木とされており、その松の葉を砂山の頂に差すことで、神様の降臨をより強く引き寄せると考えられてきました。現代の「盛り塩」の起源もこの立砂にあると言われており、日本の暮らしの中に、今もその文化は息づいています。
3.パワースポット「岩上」と葵祭
境内を歩いていると、縄が張り巡らされた一つの岩が目に入ります。これが「岩上(がんじょう)」。立ち入り厳禁の特別なパワースポットです。

この岩の形は、賀茂別雷大神がご降臨になった神山の山頂を模したものとされています。つまり、立砂も、この岩も、すべて「神様が降りた山」への敬意の表れでした。
☞葵祭(あおいまつり)とは?
京都三大祭のひとつで、毎年5月15日に行われます。起源は約1500年前。平安貴族の装束をまとった約500名が、京都御所から下鴨神社を経由し、上賀茂神社へと向かう「路頭の儀」は圧巻の美しさと言います。上賀茂神社に到着すると、宮司がこの「岩上」に登り、返祝詞(かえしのりと)を唱える重要な神事が執り行われます。
この岩上は神山と同じく賀茂信仰の原点。古代祭祀の形を現代に伝承する場所であり、神と人との心の行路でもあり、まさに神気が集中するところです。1500年の歴史を持つ儀式が、今も変わらず続けられているという事実に、静かな感動を覚えます。
本殿と権殿―全く同じ造りに込められた意味

上賀茂神社の奥に進むと、そっくりな社が並んでいます。「本殿」と「権殿(ごんでん)」です。古い神社建築である三間社二面流造で、大きさも、細かな装飾のひとつひとつに至るまで、まったく同じ造りで建てられています。

☞権殿とは「仮の社」
権殿には通常、神様はお鎮まりになっていません。しかし、自然災害や火災などで本殿に被害が生じた際に、すぐさまお移りいただけるよう、常設の「仮の御殿」として建てられています。
神様の御座所を万全に守るため、「本殿と全く同じ仮の社をあらかじめ用意しておく」という発想は、古代の人々がいかに神様を大切にしてきたかを物語っています。
また、上賀茂神社の本殿は「流造(ながれづくり)」と呼ばれる平安初期に成立した日本の神社本殿形式で、正面の屋根が長く流れるように延びた、優雅な曲線が特徴です。檜皮葺の屋根は、扠首(さす)切妻造りで、国宝にも指定されています。全国の神社の約6割が上賀茂神社の本殿形式を採用しているそうです。
渡れば長寿になれる「樟橋」

境内を流れる御物忌川(おものいみがわ)に架かる「樟橋(くすのきばし)」。この橋を渡ると長寿になれると言い伝えられています。
その理由は、橋の素材にあります。実はこの橋、樟(クスノキ)の化石を使って造られているのです。表面を触れると、木というより石のようで、しっとりとした化石ならではの質感が伝わってきます。
☞鎌倉時代の絵図にも登場する橋
鎌倉時代に描かれた上賀茂神社の境内絵図にも、この樟橋がしっかりと描かれているそうです。つまり1000年以上、まったく変わることなく、同じ場所に存在し続けているのです。
古来、クスノキは長命の木として知られてきました。樹齢1000年を超えるものも珍しくなく、その生命力の強さが「長寿」と結びついたのでしょう。1000年以上前から存在する橋+長寿の象徴であるクスノキの化石——渡らずにはいられませんね。
まとめ―訪れるたびに、新しい発見がある場所―
上賀茂神社は、ただ美しい神社ではありません。鳥居にしても立砂にしても、歴史と祈りと宇宙観が込められた、生きた日本文化遺産です。
今回ご紹介した5つの見どころを意識しながら参拝すると、境内のすべてが語りかけてくるように感じられるはずです。ぜひ、時間をかけてゆっくりと境内を散策してみてください。

山城国一之宮 世界文化遺産
075‐781-0011(電話受付時間:8:30~17:00)
〒603-8047 京都市北区上賀茂本山339
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🔶福永 あみ / Ami Fukunaga🔶
フリーランスライター兼ディレクター/英語講師
証券会社勤務を経て渡米し、ロサンゼルスの大学でテレビや映画を学ぶ。現地では執筆活動や映像制作に携わり、ライフワークとして日系アメリカ人の歴史の取材も行う。2011年に帰国後、出版社やNHKワールドジャパンなどで勤務。現在はフリーランスとして、英語講師やディレクター業の傍ら、ブログ「カルカフェ」を運営中。
神社仏閣や伝統工芸、美術、陶芸、ヨガなど、日本文化や暮らしを丁寧に楽しむライフスタイルを大切にしている。2019年には神社検定弐級を取得。最近は、日本の歴史を改めて学び直し中です。
このブログでは、そんな日々の学びや旅、映画やアートのことまで、心に響いたことを自由に綴っています。あなたの暮らしにも、小さな発見や癒しが届きますように——。