松竹梅湯島掛額は、「吉祥院お土砂の場 」と「 四ツ木戸火の見櫓の場」を合わせた二幕物です。
一幕目は吉祥院お土砂の場はアドリブの多い喜劇で歌舞伎では珍しい演目です。二幕目の 四ツ木戸火の見櫓の場は八百屋お七が人形振りと云って役者が人形の動きをまねて演じるシーンが観られます。
黒子と七之助さんが一体となった浄瑠璃「伊達娘恋緋鹿子」の舞踊が見物です。 それでは早速ご紹介します。
松竹梅湯島掛額(しょうちくばいゆしまのかけがく)
松竹梅湯島掛額 その③
紅屋長兵衛 猿之助
八百屋お七 七之助
母おたけ 門之助
長沼六郎 松江
若党十内 廣太郎
同宿了念 福之助
釜屋武兵衛 吉之丞
友達娘おしも 宗之助
月和上人 由次郎
下女お杉 梅花
小姓吉三郎 幸四郎
【ストーリー】趣向あふれる人気の狂言
🔷一幕目 吉祥院お土砂の場
本郷駒込の吉祥院。本堂にある天女が彫られた欄間でも有名なお寺です。折しも木曽の軍勢が攻めてきたので、若い娘たちがこの寺に逃げ込んできました。そこへ紅屋(べんちょう)というあだ名で親しまれている人気者の長兵衛や八百屋お七とその母おたけ、下女のお杉がいっしょに逃れてきました。
以前から小姓吉三郎に心を寄せるお七でしたが、叶わぬ恋であることを知り、悲しみに打ちひしがれていると、紅長はお七を慰めます。
諦めきれないお七はこの機会に「吉三郎と夫婦にしてほしい」と母おたけに頼み込みますが、おたけは娘に、「吉三郎は出家する身、実は店が立ち行かなくなって釜屋武兵衛から200両のお金を借りたが、返せないのでお前を武兵衛に嫁がせなければならない」と告げます。
お七の思い
そこへ若党十内がやってきて、「吉三郎の帰参が叶い、許婚と結婚して家督を継ぐことになった」と知らせます。元は侍だった吉三郎は「天国(あまくに)」という名刀を無くして家を勘当された身の上。実はその刀の行方を捜していたのでした。
おたけは娘のためにと十内に吉三郎との間を取り持ってくれるように頼みますが、身分違いだと断られます。
折しも軍勢の攻め寄せる太鼓の音。釜屋武兵衛と長沼六郎たちが登場します。お七が欄間の彫り物の天女に似た美しい娘だということを聞きつけ、愛妾にしようと家来を差し向けてきたのです。
住職たちが「お七はいない」とごまかすと、武兵衛と六郎たちは引き揚げます。しかし、いつ戻ってくるかわかりません。この話を聞いた紅長はお七に欄間の天女になりすまして、身を隠すように勧めます。そこで紅長は自ら亡者に化けることにしました。
再度やってきた六郎たちは欄間のお七に見とれてしまいます。本物と気付かずにお七を探すために奥の部屋へ入っていきます。そこへ騒ぎを聞きつけた吉三郎が欄間のそばにやってきました。お七は欄間から降り、吉三郎に自分の思いを打ち明けます。一部始終を陰で見ていた紅長は、お七に病気の振りをするよう促します。するとお七は急に苦しみだし、吉三郎が慌てて介抱します。2人はすっかり仲良しに。
住職たちはあまりにもしつこい六郎たちに「お七や母親は死んだ」と告げます。六郎たちは本堂に持ち込まれた早桶をひっくり返すと、中から現れた紅長の死体が殴りかかっていきます。怒った武兵衛が見つけたのは、病人にかけるとたちまち直ったり、死体かけると柔らかくなるという「お土砂 ( おどしゃ ) 」。紅長は武兵衛から「お土砂」を奪って、次々に現れた人々に「お土砂」を掛けまくり、吉祥院内はドタバタ喜劇に。
その間、お七は吉三郎に思いを馳せながら、下女のお杉と共に家へ帰っていきます。
🔷二幕目 四ツ木戸火の見櫓の場
しばらく後の冬の夜、お七の家へ釜屋武兵衛が天国の名刀を持ってやってきます。お杉はその刀を盗み出して吉三郎にとどけるようにお七に勧めます。駒込の木戸までやってきたお七とお杉ですが、町の木戸は閉じられ、木戸番も開けてはくれません。お杉は火の見櫓の太鼓を叩けば、木戸が開くことを思い出しますが、むやみに太鼓を打てば厳罰に処されてしまいます。
それでも吉三郎に会いたいお七はお杉が家へ引き返しているうちに、火の見櫓に登って太鼓を打ってしまいます。そこにお杉が刀を抱えて戻ってきます。お七はその刀を手に吉三郎の待つ吉祥院へ走っていきます。
歌舞伎では珍しい笑劇と人形振りの二幕物
松竹梅湯島掛額はいかがでしたでしょうか?欄間の天女になりすました七之助さんのお七の美しさ。また猿之助さんの紅屋は面白おかしく、とくにお土砂のかけ合いは今も脳裏に焼き付いています(笑)。
菊之助のお七は「生き人形」という言葉が頭に浮かんでくるような美しさ。欄間の天女になりすますという設定にもあまり無理が感じられません。後半の人形振りも面白く、本舞台から花道七三に転がり出てきて倒れ人間に戻るところでは、雪も一陣の風と共に菊之助にまとわりついて来て、その有様には思わず見とれてしまったほどでした。
人形振りの雪のシーンは豪快で、ドッと降らせた雪の中で黒子とお七の息の合った浄瑠璃が際立っていました。このシーンに力を入れられている分、とても時間が長く感じられました。
まとめ
お七と吉三郎の恋の行方、そしてひょうきんな紅長がお七の恋に手を貸すところが本当に楽しめました。もちろん櫓のお七の人形振りもみどころ。毎年何処かの舞台でやられている演目のようなので、機会があればぜひご覧くださいね。
(完)